ファインブランキング加工の現状とこれから

 ファインブランキング(FB)はプレスによる打ち抜き加工法の一種で、その最大の特徴はプレス1ストロークの動きのみで、打ち抜きの加工面を平滑に剪断(せんだん)できることである。薄板など一部の部品では金型側で特殊な工法を用いて平滑な剪断面を実現している例もあるが、板厚によらず安定的に平滑な剪断面を容易に得られる工法として、FBは最適な存在といえる。 <日刊工業新聞 2023年5月10日掲載>

FBの特徴とプレスの役割

 プレスで加工された面が製品上で必要な機能面である部品の生産時に、FB加工の特徴を最大限に生かせる。プレス加工面に平滑な面を要求される場合の最も効果的な加工法が、FBである。また高い加工精度の平面度、平坦(へいたん)度あるいは穴間寸法などを得ることができるプレス加工法でもある。

 FBプレス機はその加工法を実現するために開発されたFB加工に特化したプレス機で、油圧制御を基本としている。その特徴として三つの圧力を巧みに制御し、加工することができるプレス機でなくてはならない。

 当社は1982年に油圧式FBプレス第一号機を納入して以降、納入台数を増やし、特に2000年代になると国内市場だけでなく海外への輸出も増え始めた。経済連携協定(EPA)と自由貿易協定(FTA)の発行により、ますます海外への進出が鮮明になってきており、現在では欧州安全規格「CEマーク」を取得し、FB技術の生まれ故郷である欧州にも日本発のFBプレスを納入している。

プレス機はより大型へ

 当初1000キロニュートンにも満たない小型のプレスから始まったFBも、主な加工製品が時計部品や事務機器部品などの小型部品から比較的大きな自動車部品、そして被加工材もより厚く高強度へと変遷してきたことでプレスも大型化が進んでいる。当社の場合、FBプレスでは最大級となる1万5000キロニュートンプレスの納入実績も生まれている。

複合加工と補助油圧

  • 【写真1】より複雑で立体的な製品形状の成形を可能とする補助油圧8回路のメーター
    【写真1】より複雑で立体的な製品形状の成形を可能とする補助油圧8回路のメーター

 プレス能力の向上は新たな製品加工をもたらした。それまでは単発総抜き金型が中心であったが、多数個取りや複合加工を含んだ順送金型へとより複雑で立体的な製品形状に対応する金型が多くなってきた。主に油圧で駆動するFBプレスでは圧力に関する制御が容易にできる。それがさまざまな複合加工を行える要因の一つとなっている。

 このような背景から、現在多くのFBプレスには補助(付加)油圧を搭載している。半抜き(エンボス)つぶし、増肉などは比較的多く行われている加工である。板である材料を流動させて押し出すような精度の高い加工をするときにも使用する。さらに従来は順送工程において2工程に分けなければならなかった加工であっても、縦方向に順送することができ、工程の短縮も可能になった。そのような加工に最大限対応するため、当社では任意に制御可能で、最大8回路の補助油圧を搭載したプレス機も納入している(写真1)。

順送多工程への対応

  • 【写真2】順送多工程による増肉、歯抜き、ダボ出し、バーリングをした製品サンプル
    【写真2】順送多工程による増肉、歯抜き、ダボ出し、バーリングをした製品サンプル
  • 【写真3】順送多工程対応の長方形タイプの広い受圧部
    【写真3】順送多工程対応の長方形タイプの広い受圧部

 FB順送は多工程金型が増えてきた(写真2)。構造上、多くのFBプレスは円形状の加工可能な受圧エリアを持つものが主流となっている。多工程の場合、この範囲に収めることが優先され、荷重バランスを欠いた金型にならざるを得ない場面もある。その課題解消の一つとして、同じ加工能力でありながら長円や長方形タイプの広い受圧部を持つFBプレスの製作にも応じている(写真3)。

高サイクルへ向けて

 スライド速度の高速化でプレス自体の運転サイクルの向上を図ってきた。高速化においては加圧時間が最大の難点であり、その解決のためポンプの増強、油圧ユニットや回路の刷新をしながらプレスの高回転化を実現している。

 取り出し機を使用した製品排出方法の生産体制が増えてきた背景から、プレス機が取り出し装置の詳細な動きに関する指令を連携処理することにより、取り出し機の動きを最適化した例がある。動作待ちの時間を大きく削減することで高サイクルを実現した例もある。

さらなる製品の要求

 現在の市場要求で顕著なものは、ダレを極限に小さくすること、あるいはダレ無しというニーズが増えてきている点だ。この問題について当社の金型技術部門では従来のシェービング方法以外の工程を開発している。すでに実証実験を済ませており、顧客の数社へはその技術を提供して市場ニーズに応えている。

EV化への動き

 多くの自動車部品の製造に使われているFBも電動化の動きは無関係ではない。現状のパワートレインに関係する部品の減少は避けられず、電気自動車(EV)に置き換わったときにFB加工が優位になる部品を模索している。

 この状況は業界全体としての問題であり、どのような部品が出現してもそれに対処でき得る力を蓄えて行くべき時期と感じている。

 プレスも今後は抗張力鋼板、大型の極薄板の加工、ハイブリッド材など鉄以外の材料に対応すべきだ。上死点精度のさらなる向上、特性上不安定になりがちな油圧の一層の安定化による打ち抜きショックなどの低減と、それを支える機械剛性といった課題に取り組みながら、FBプレスも対応していくことが求められている。

【執筆者】

森鉄工 金型技術部 主任 岩下一樹