領域拡大に挑む
強くて信頼性のある部品づくりを少ない材料と工程で成形する鍛造技術。複雑形状の部品を大量生産できるメリットも持つ。自動車を中心に進化してきた技術は、電気自動車(EV)や航空機など、成長分野への開拓に向け技術開発を推進。鍛造加工の領域拡大に向け、さらなる進化に挑んでいる。 <日刊工業新聞 2023年3月9日掲載>
経済活動再開 需要は急回復
鍛造はハンマーやプレスでたたいて、金属を目的の形状に成形する塑性加工のひとつ。関わる機械の市場環境はコロナ禍からの経済活動の再開を受けて、需要は急回復している。
日本鍛圧機械工業会(日鍛工)がまとめた2022年(暦年)の鍛圧機械の受注額は前年比12・5%増の3729億円。2年連続で増加した。この10年間では18年の3898億円に次ぐ受注となるなど、コロナ前の水準になっている。
機種別ではプレス系が同13・4%増の1540億円、板金系は同15・8%増の1303億円だった。プレス系の内訳は前年比で、サーボ・機械プレス系16・5%増、油圧プレス13・9%増など。国内向けの業種別の内訳では同様に自動車が42・3%増、金属製品製造業1・8%減、一般機械21・1%増、電機7・2%増、鉄鋼・非鉄金属32・5%増などとなっている。
ただ、単月ベースでは直近公表の1月の受注額が前年同月比3・6%減と2カ月連続の前年割れとなった。機械の長納期化や原材料高などが影響。設備投資は横ばい傾向にある。23年の受注について、日鍛工は22年と同水準で推移すると予想している。
鍛造技術は自動車産業を中心に、各業界の成長、発展を支えてきた。生産性や歩留まりの向上をはじめ、高精度対応では精密金型と高度な成形シミュレーションで、切削や研磨の仕上げ加工を省略できるネットシェイブ化の取り組みなどで、ニーズに応えてきた。
鍛造で成形する方法は、加工温度によって熱間鍛造、冷間鍛造、温間鍛造に大別される。熱間は特に大型部品の製造で存在感を示す。高温で材料を加熱するため、変形抵抗が小さくなり高張力材料でも変形しやすい。
冷間鍛造はプレス機を使って常温の金属に金型内で圧力を加え成形する技術。スクラップの発生が少なく、材料の歩留まりも良い。変形抵抗が大きいため大型形状の加工に適さないが、素材に熱を加える必要がないことから寸法精度が高い。成形された製品は組織が細分化し、ファイバーフロー(金属組織の流れ)が切断されないため、強度も向上する。
温間鍛造は熱間と冷間の双方の長所を生かして行う方法。冷間の利点である加工精度を生かしながら、常温より材料を加熱することによって、加工時の難易度が下げられる良さがある。
成長分野の開発加速 航空機向け 新鍛造プロセスに着手
鍛造では成長分野への搭載に向けた研究開発が活発だ。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は航空機部品での新たな鍛造プロセスの開発に着手している。ニッケル基合金部材を高温で鍛造するためのプレス金型の開発を目的とする。
航空機エンジンに使われる国産材の競争力強化を目指す研究開発の一環。「航空機エンジン向け材料開発・評価システム基盤整備事業」として着手した。プロテリアル(旧日立金属)の提案を採択しての共同研究で、事業期間は25年度までの4年間。
従来の鍛造プレス機は金型材が高温で酸化しやすく真空引きする必要があった。このため空気中で酸化しにくい金型材を作製して鍛造プロセスを効率化する。この事業で新合金が次世代航空機に搭載され、さらに軽量化と航空機エンジンの効率化によって燃料改善が実現した場合、40年までに年間92・8万トンの二酸化炭素排出量の削減効果があるとみられる。
EV向けでは、工場の増床などによる生産強化への製造事業者の動きとは別に、開発した金属材料を高強度化する新技術を訴求するところも。金属材料をねじりながら熱処理する技術と鍛造を組み合わせて高強度化する。
EVなどに用いるアルミニウム材や駆動部品に使用する鉄鋼材料の強度を上げるニーズに対応した。試作や技術支援、加工設備の販売にもあたる。