プレス加工中に騒音が起きる原因は

音の原因はいくつもある

  • 図1 プレス加工中に発生する音
    図1 プレス加工中に発生する音

 プレス加工の課題の1 つに加工による騒音がある。図1にプレス加工中に発生する音の原因を列挙している。音は金属と金属が接触した時に発

生する。接触するスピードが速いと大きな音になる。プレス加工では材料に金型を接触させることから連続的にストロークすると衝突音が発生する。このほかプレス機械の作動においても隙間やガタから音が生じる。また、製品の搬送や排出でエアーを使うため、その作動音が発生する。

 それ以外でも加工によるプレス機械の伸び縮みからブレークスルー(固体音)が発生する。打抜き加工では材料を破断させるまではプレス機械に負荷がかかっているが、打抜かれた瞬間に負荷が解放される。それと同時に材料が破断するときに、破断音が発生する。

 最近、引張試験における材料破断時の音発生のメカニズムが明らかになった。引張試験で材料が破断するときに大きな破断音が発生する。ステンレスのような張力の大きい材料ほどその破断音は大きくなる。また、断面積の大きな試験片ほど破断音は大きくなる。破断時の荷重が大きいほど発生する音は大きい。

  • 図2 破断音の発生メカニズム
    図2 破断音の発生メカニズム

 これは空気の振動が関係している。破断する時、破断部の周囲が真空になり空気の膨張と収縮が急激に起こることで空気が振動する。その結果破断音が発生する。破断荷重が大きいほどエネルギーは大きい。それが解放されると空気を激しく振動させるため音が大きくなる(図2)。

 打抜き加工においても材料を破断させる。クランクプレスなどで連続的にストロークさせた時に引張試験と同様の破断音が発生する。速度が早け

ればその分大きな音になる。

 しかし、サーボプレスでストローク中の速度を変化させて打抜き加工すると、破断音は殆ど発生しない。張力の高い鋼板を打抜いた時も大きな音

が発生する。

  • 図3 材料の振動
    図3 材料の振動

 振動で考えてみる。図3に示すように材料は性質、揺らし方で揺れ方が変わる。柔らかい材料ほどよく揺れる。破断音とは反対の傾向である。

せん断加工の切り口面はひずむ。この蓄積した内力の解放の仕方で破断音の大きさが変わる。破断音は一種の衝撃音である。その代表例は爆

発音である。密閉された容器内のガスや粉じんが急速に燃焼して容器内部のエネルギが高まった時に起こる。瞬間的にエネルギが解放されると空気は激しく振動し、やがて音に変わる。爆発音は燃焼する速度(爆轟、爆燃)や可燃物の量や大きさで変わる。

 破断音も爆発音も振動した空気が音となって伝わってく現象は同じである。揺れやすく柔らかい材料は加工エネルギを必要とせず破断する。一方で揺れにくく硬い材料は加工エネルギを必要とする。音は振動エネルギーである。加工力を必要とする硬い材料は大きなエネルギーで加工しており、揺れ始める周波数も高い。つまり、爆発による衝撃音のように激しく振動する条件が揃っているため破断音も大きくなる。

 遮音やサーボプレスによる騒音対策は有効である。快適な職場環境の実現に騒音の対策は欠かせない。

執筆者:東北職業能力開発大学校 生産機械システム技術科 職業能力開発教授 喬橋 憲治

出典:プレス技術 2023年4月号