「安全一行程」は何のためにあるの?

  • 図1 プレス機械操作パネルの安全一行程
    図1 プレス機械操作パネルの安全一行程

 図1のプレス機械の両手操作式ボタンで作業をする操作盤で切替スィッチにある「安全一行程」。日々利用していて見慣れているかと思うが、正確にその動きと機能を説明できるだろうか。作業現場では、「安一(あんいち)」とも言われる「安全一行程(あんぜんいちこうてい)」であるが、「安全一工程」との記述も散見されるが、正確には「行程」である。

 「工程」は、「仕事などの順序、進み具合」に対して使われる言葉。反面、「行程」は、「目的地までの距離、道のり」に対して使われる言葉である。そのためスライドの移動で目的の位置への道のりと考えて「行程」が利用されるのだ。

 話を戻すと「安全一行程」は、「安全」と「一」と「行程」を合わせた言葉であり、「安全を確保することができる一回だけ上下運動する行程」とも言える。順番に説明を加えるならば、

  • 図2 プレス機械の上死点・下死点
    図2 プレス機械の上死点・下死点

〇安全を確保

 プレス作業者の身体の一部(多くの場合は手首)がプレス加工中の上型と下型の間に挟まれないようにすることである。

〇一回だけの行程

 両手操作ボタンを押し続けても、プレス機械のスライドが、スライド移動開始位置である一番高い位置(上死点)から下降して、一番低い位置(下死点)を通過して、再びスライド移動開始位置に戻り止まる「行程」(図2)。つまり、スライドの上下運動を「1 回」だけ行う。

  • 図3 「安全一行程」の動き
    図3 「安全一行程」の動き

と考えることができるであろう。このような動きと機能を発揮するためには、図3のような具体的な動きとなるのだ。

 「安全一行程」では、スライドが下降している間、つまり下死点の少し手前(指先が挟まれない上型と下型のすき間が6 mm 以下になる状態)まではボタンを押している間だけ下降し、ボタンから手を離すとスライドは停止する。一方、両手操作ボタンを押し続け、下死点を過ぎ上死点に向かい上昇する際は両手操作ボタンから手を離しても上死点に達するまで上がり続ける。つまり上昇している間は上型と下型のすき間が大きくなるので、手首が挟まる危険性が減少するからである。

 さらに、上死点まで押し続けても、スライド運動が再度開始することはない(1 回だけの行程)。このような機能も「安全」を確保するために組み込まれている。この機能を、「再起動防止または一行程一停止」と呼ばれ、「両手操作ボタンを押し続けていてもスライドが設定停止点(一般的には、上死点)で必ず停止すること。」と決められている。つまり、安全一行程には、「再起動防止/一行程一停止」の機能も含まれることになる。両手操作式安全装置の「再起動防止」を含む「安全一行程」は、下記の作業を行うことでその安全確保が確認できる。

1、片手では絶対動かない
➡両手操作

2、 下死点手前までは、押ボタンを離したら必ず止まる。
➡安全一行程

3、両手を押したままでも必ず上死点で止まる。
➡再起動防止/ 一行程一停止

4、 3 の状態で、片手を離し、再度押しても動かないこと。
➡両手操作/ 再起動防止

執筆者:塑性加工教育訓練研究所 代表 小渡 邦昭

出典:プレス技術 2023年4月号