岐阜大学地域連携スマート金型技術研究センターにおけるスマート金型2.0の取り組み

自ら考え・行動する 金型・成形機

 少子高齢化による生産年齢人口減少に対応すべく、岐阜大学地域連携スマート金型技術研究センター(以下、金型センター)は、文部科学省2016年度補正「地域科学技術実証拠点整備事業」の助成を受け、岐阜県との共同提案である「スマート金型開発拠点事業(以下、拠点事業)」を18年から実施している。20年までの3年間で第1期が完了し、新たに第2期が21年度から始まっており、ここではその取り組みについて紹介する。

第2期迎えた拠点事業 AI用いて自動試作

 拠点事業第1期では「不良率0」を目標に、素形材マスプロダクションにおける不良検知技術の開発を、板成形、鍛造、射出成形(2グループ)の四つの研究開発グループごとに展開した。これに加えて、センシング技術やデータ分析をはじめとする各グループの共通課題を、横断的研究室であるセンシング研究室およびIoTプラットフォーム・データ解析研究室がサポートする体制とした。

 前期の取り組みを「スマート金型1・0」とすると、今期(21ー23年)は前期から①スマート金型開発事業―を引き継ぎ、これに加えて②人工知能(AI)成形機開発③次世代3D積層造形(AM)技術開発④先進材料試験開発事業―を新たに立ち上げ、これらを「スマート金型2・0」と呼ぶ(図)。

 ①のスマート金型とは、いわば「自ら考えて自ら行動する金型・成形機」の総称と言える。すなわち、金型および成形機の適切な箇所に埋め込まれたセンサーからの出力を、独自に開発した双方向無線技術でコンピューターに届け(写真)、あらかじめ構築したAIモデルに適用することで生産状況の良しあしをリアルタイムで判断する。これによって、不良発生の検知あるいは発生予測に基づいて停止するというものである。

 ②AI成形機開発においては、不良発生を予測した段階で金型設定あるいは加工機設定を自動調整することによる良品生産の継続を目指している。さらに、製品形状および寸法公差をあらかじめ与えておき、その実現を目指して機械学習に基づく最適化アルゴリズムが金型および加工機と連携して自動試作を行い、加工条件の最適な組み合わせを提案するシステムを構築する。また、試作において生じる失敗データを、再利用可能な形で蓄積した技術伝承ナレッジアーカイブの自動構築技術も開発する。

次世代3DAM技術開発

  • スマート金型開発システム
    スマート金型開発システム

 ③次世代3DAM技術開発では、複雑な内部構造を持つ金型の創成および金型補修技術の構築を目指す。例えば粉末床(PBF)AM技術においては、ベースプレート上に微細金属粉末を均一に敷き、これに電子ビームやレーザーを必要な箇所のみに照射して溶融・凝固し、これを層状に繰り返すことによって複雑形状を得る。

 しかしながら当該手法においては、溶融不良あるいは過剰なエネルギーの導入によって、内部に微小空洞が少なからず残存する。長寿命かつ高機能な金型の創成のためには、これらを可能な限り低減する必要がある。本開発テーマでは、積層条件の最適化に加えて、溶融・凝固プロセスと塑性加工を同時に行う新たな造形技術の開発も進めている。

 ④については、数値シミュレーション精度の向上を目的とした先進材料試験を開発する。スマート金型技術の開発においては、金型に設置するセンサーの種類、設置箇所ならびに設置方向などを適切に決定する必要があり、これらの理論的検討には数値シミュレーションの利用が必須である。このため、金型だけでなく被加工材の機械的特性や延性破壊特性、金型―被加工材間の摩擦特性および熱伝達特性などを、独自に開発した材料試験と機械学習に基づく最適化手法による逆解析によって、高精度に同定する手法を開発している。

 これら「スマート金型2・0」の推進によって、金型技術および加工プロセスに潜む工学的・工業的知見をIoTやサイバーフィジカルシステムによって顕在化および形式知化する「金型情報学」の体系化を目指し、わが国におけるモノづくり技術のさらなる発展に貢献する所存である。

【執筆者】東海国立大学機構 岐阜大学 地域連携スマート金型技術研究センター センター長・教授 吉田 佳典