緩み・疲労破壊は表裏一体の現象

 つぎにねじ部品の形状変更について考察する。図2はISO方式のナットの形状を示している。テーパーをつけた座金と一体構造となっており、ナットはその上で回転する。この場合、発生するトラブルの多くは、JIS方式と異なりナットの回転緩みである。形式の違いからトラブルの発生形態は異なっているが、いずれもボルトの軸力低下、軸力不足が原因である。

 JIS方式の場合、ホイールとインナーナット、アウターナットの接触面は球面となっており、回転緩みは発生しにくい。そのため、非回転緩みや初期軸力不足によってボルトが疲労破壊する。図3は回転緩みの代表的なパターン示している。実際の締結部では、これらの荷重が同時に作用するケースが多く、緩み現象を複雑にしている。軸直角荷重により発生する緩みについて、筆者らはねじ山のらせん形状を忠実に再現した有限要素モデルを用いて、諸因子の影響を定量的に評価している。

 07年5月にエキスポランドで発生したジェットコースターの事故は、車軸の端に加工されたねじ部の疲労破壊が原因である。問題の車軸の端部は、2段階に直径を小さくして、短い部分にねじが加工されていた。事故原因として、十分に定期検査をしていなかった点が指摘されたが、問題の箇所は目視しにくく、設計段階でねじ部の重要性を認識していた可能性は低い。

 もう一点、設計上の大きな問題を含んでいる。ねじ部の破断形状は、軸方向にくり返し荷重を受けた場合に類似しているという指摘がある。長い軸の一部のみ細くすると、軸全体のひずみエネルギーの吸収能力が極端に低くなる。これは初歩的な材料力学が教えてくれるところである。

 緩みと疲労破壊は表裏一体の現象で、発生原因はいずれもボルトの軸力不足、軸力低下であるケースが多い。それを避けるためには、塑性変形など他の問題が起きない範囲でボルト軸力を高く設定することが有効である。機器の性能が向上した場合、ねじ部に作用する力も大きくなる。その場合、作用する力と同じ比率で軸力を高くしても有効ではない。簡単な形状の締結部、荷重条件で計算したところ、疲労の原因となる応力振幅も比例的に上昇した。

 以上、本稿で扱った内容の詳細については拙書「ねじの力学」(コロナ社)および学会論文を参照していただきたい。

【執筆】神戸大学名誉教授 福岡 俊道

<執筆者プロフィル>専門はボルト締結体の力学特性の研究。ねじを中心とした強度評価・設計のセミナーやコンサルティングも手がける。『技術者のための ねじの力学』(コロナ社)『The Mechanics of Threaded Fasteners and Bolted Joints for Engineering and Design』(エルゼビア、邦題:エンジニアリングと設計のためのねじとボルト締結体の力学)など著者多数。