進化続く レーザーテクノロジー
レーザーの加工への応用は1960年のルビーレーザーの発明から始まり、60年以上を経た現在も進歩を続けている。レーザー加工は光による加工であり、その加工技術は、大出力化、多種の波長を照射するための光源の開発、集光・搬送の光学系、パルス化、そして複合加工機への搭載など、多岐にわたるアプローチによって進み、多種多様な加工法や材料に対応できるようになっている。ここではこれらの進化について紹介する。
ー多面的に進むレーザー加工の進化ー
レーザーの加工への応用は60年のルビーレーザーの発明から始まり、63年の炭酸ガス(CO2)レーザーの開発と続き、現在に至るまで改良が進められている。レーザーは向き・位相・波長のそろった光であり、レーザー加工ではレーザー光が被加工材に吸収されることで所望の変化(昇温、軟化、溶融、蒸発、昇華など)を生じさせるエネルギーを伝達する。
また、放射するレーザーの波長はレーザー材料によって決まっており、他方、被加工材の材質によって光の波長ごとに吸収しやすさ、言葉を変えれば反射や透過のしやすさも決まっている。したがって、レーザー加工の進化は①レーザー出力を高めて変化が起こりやすくする②被加工材が吸収できる光の波長のレーザー光源を開発する③空間・時間当たりのパワー密度を高めて狙った箇所のみ加工できるようにする―など多面的に進んでいる。ここではこれらの進化について紹介する。
ー大出力化ー
大出力化は被加工材へ伝達するエネルギーを増加させることから、直感的にも理解しやすい進化であろう。CO2レーザーは発明当初の64年では最大出力1ミリワットであったが、70年代初頭には研究レベルで20キロワット台に到達していた。
現在では最大出力70キロワットを超えるレーザー加工機はCO2レーザーのほか、ファイバーレーザーや半導体レーザーが市場に登場している。
ー波長ー
続いて波長についてみてみよう。CO2レーザーは比較的安価で高効率な光源であり、ガラス、アクリル、鋼材の加工に対応できるため今なお産業で活躍しているが、その波長10.6マイクロメートルをほとんど吸収しない、いわゆる高反射率の金属の加工には不向きである。一方、CO2レーザーとともに20世紀から産業用レーザー界を牽引(けんいん)する固体レーザーのYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)レーザーの基本波長は、1.064マイクロメートルとCO2レーザーの10分の1程度であり異なる被加工材に対応できる。
さらに、非線形光学結晶により基本波長1.064マイクロメートルの2分の1や3分の1の波長のレーザーを得ることで高反射率な金属とされる銅の加工も可能となる。
ー光学系の進化ー
集光レンズに代表される光学系の進化もレーザー加工の進化には欠かせない。同じレーザー光であっても直径1マイクロメートルまで集光すると、直径1ミリメートルの場合と比較して照射面積当たりのパワー密度は100万倍となる。また加工しない箇所への熱影響の抑制や、切断部分の素材ロス(カーフロス)の抑制に対するメリットがある。
集光レンズや光軸調整ミラーに関しては被加工材とは逆にレーザー光を吸収せず透過および反射できる材料が求められる。例えば、人間にとっては透明に見えるガラスは、可視光から近赤外線にとって透明であるが、CO2レーザーの波長10.6マイクロメートルにとっては吸収スペクトルであり集光レンズとして使えない。10.6マイクロメートルが透過スペクトル帯の材料として、ヒ化ガリウム(GaAs)、塩化カリウム(KCl)、そして最も使われているセレン化亜鉛(ZnSe)製レンズの研究・開発がCO2レーザーの進化の裏にはある。
レンズが空間的な集光である一方、時間的なパワー密度を集中させる方法として短パルスレーザーがある。60年代後半にはピコ秒(1兆分の1秒)を下回るパルス幅のレーザーが実現されており、近年ではピーク出力がテラワット(1兆ワット)にも及ぶフェムト秒レーザー(1パルスの時間がフェムト秒=1000兆分の1秒のレーザー)が市場に投入されている。この出力は世界の総電力の平均(2016年の23兆キロワット時から換算し2.6テラワット)に匹敵する値である。
パルス化のメリットには間欠加工であるため①材料の飛散や金属蒸気による影響を避け、被加工材へのエネルギー伝達の効率を上げる②熱影響が被加工材全体へ伝わる前に材料を除去するため熱によるダメージを抑制できる―などが挙げられる。また条件により照射表面にレーザー波長の数分の1程度の微細構造が作成できることが報告されている。
ー加工機への搭載ー
加工機への搭載を見ると、フライス盤やマシニングセンター(MC)の工具をレーザーヘッドに置き換えた方式、ガルバノスキャナーとfθレンズより少ない機械的な移動量でレーザー光の光路を制御する方式、ロボットアームにレーザーヘッドを把持する方式がある。
これらは照射面積、被加工材への照射角度、加工速度などそれぞれの長所を生かした進化である。また、MCの刃物の一つとして、もしくは指向性エネルギー堆積(DED)方式の積層造形(アディティブ・マニュファクチャリング、AM)用ユニットとして切削・レーザー複合加工が可能な工作機械も開発されている。
レーザーはその発明以来、産業への応用を見越した研究・開発により進化を続けている。旋盤やフライス盤と同様、レーザー装置も一台で万能ではないため、用途に応じて出力、波長といった仕様を選定する必要がある。
【執筆】日本大学 工学部 准教授 嶋田 慶太